タイトル: | 特許公報(B2)_エンドトキシンの除去方法 |
出願番号: | 1993053702 |
年次: | 2004 |
IPC分類: | 7,C07K1/22,C07K14/195,B01D15/00 |
安達 恒康 井田 純一 橋本 正憲 JP 3569927 特許公報(B2) 20040702 1993053702 19930315 エンドトキシンの除去方法 栗田工業株式会社 000001063 重野 剛 100086911 安達 恒康 井田 純一 橋本 正憲 20040929 7 C07K1/22 C07K14/195 B01D15/00 JP C07K1/22 C07K14/195 B01D15/00 M 7 C07K 1/14〜36 C07K 14/195 B01D 15/00 1 1994263799 19940920 9 20000221 鈴木 恵理子 【0001】【産業上の利用分野】本発明はエンドトキシンの除去方法に係り、特に蛋白質とエンドトキシンとを含む蛋白質溶液中に含まれるエンドトキシンを選択的かつ効率的に分離除去する方法に関する。【0002】【従来の技術】バイオテクノロジーにより生産された蛋白質等の医薬品の精製においては、不純物であるエンドトキシンを数pg/ml〜数10pg/mlにまで除去する必要がある。従来、エンドトキシンの除去技術としては、低分子キトサンを用いる方法が提案されている(特開昭63−56300号公報)。即ち、低分子キトサンを担体に吸着させてカラムに充填し、このカラムに被処理液を通液すると、低分子キトサンとエンドトキシンが特異的に吸着して液中のエンドトキシンが除去される。また、特開昭63−287503号公報には、エンドトキシン水溶液を、キトサンを架橋したポリアミド微多孔性膜と接触させてエンドトキシンを吸着分離することが開示されている。更に、エンドトキシンを低濃度にまで除去する方法として、イオンクロマトグラフィー、ゲルクロマトグラフィー、アフィニティクロマトグラフィー(特公平1−16389号公報)なども検討されている。【0003】特開昭63−56300号公報に開示される低分子キトサンによる方法では、エンドトキシンの吸着効率が十分ではなく、mg/mlオーダーのものを数十ng/mlオーダーまでに除去するには有効であるが、pg/mlオーダーまでの極低濃度にまで除去するのは難しい。即ち、特開昭63−56300号公報に開示される低分子キトサン固定化担体に固定化されているキトサンは低分子であり、エンドトキシン吸着に用いられる担体中のキトサン含量が少ないため、エンドトキシンの平衡吸着量が少ない。そのため、蛋白質溶液中のエンドトキシンをpg/mlオーダーまで除去する目的には実用上不適当である。因みに、特開昭63−56300号公報の実施例では、エンドトキシンは270〜57ng/mlと、数100ng/ml〜数10ng/mlまでしか除去されていない。【0004】特開昭63−287503号公報に開示されるキトサン固定化膜では、膜中のキトサン含量が10%以下と非常に低いため、やはりエンドトキシンの平衡吸着量が少なく、エンドトキシンを極低濃度に除去することは不可能であると考えられる。特開昭63−287503号公報には、水中のエンドトキシン除去について例示されているが、上述の如く、膜のエンドトキシン平衡吸着量が少ないことから、蛋白質溶液中のエンドトキシンの除去には実用上不適当である。【0005】イオンクロマトグラフィー、ゲルクロマトグラフィー、アフィニティクロマトグラフィーは、pg/mlオーダーまでの除去を目的として検討されているものではあるが、それぞれ欠点を有し、実用上有利な方法とはいえない。即ち、ゲルクロマトグラフィーは、エンドトキシンの分子量分布が非常に広いため、蛋白質などの高分子量物質との分離は困難であり、また、イオンクロマトグラフィー、アフィニティクロマトグラフィーは、平衡吸着量が小さい上に、pH、イオン強度、再生条件などの条件設定が難しい。【0006】上記従来の問題点を解決し、蛋白質溶液中のエンドトキシンを極低濃度にまで選択的かつ効率的に除去することが可能なエンドトキシンの除去方法として、本出願人は、蛋白質とエンドトキシンとを含む液からエンドトキシンを除去する方法において、該液のpHを該蛋白質の等電点以下に調整した後、架橋キトサン粒状物を充填したカラムに通水することを特徴とするエンドトキシンの除去方法を提案した(特開平3−109397号公報)。【0007】【発明が解決しようとする課題】上記特開平3−109397号公報記載の方法によれば、エンドトキシンの選択的かつ効率的な除去が可能であるが、次のような問題点があった。【0008】▲1▼ 被処理液のpHを蛋白質の等電点以下に調整する必要があるが、蛋白質によっては等電点以下で沈殿又は変性するものがあり、この場合には適用できなかった。また、多くの場合、酸性に調整しなければならず、このため、処理後に処理液を製剤化する際には、中和する必要があった。【0009】▲2▼ 被処理液となる培養液自体には多くの夾雑物が含まれており、イオン強度が高い。しかるに、等電点以下では被処理液のイオン強度が高いとエンドトキシンのキトサンゲルへの吸着反応が弱まり、除去率が低下する。このため、多くの場合、被処理液に予め塩析や限外濾過処理等の脱塩処理を施してイオン強度を下げる必要があった。【0010】本発明は特開平3−109397号公報記載の方法における問題点を解決し、被処理液のpHが、含有される蛋白質の等電点よりも高い条件下でもエンドトキシンの選択的かつ効率的な除去が可能なエンドトキシンの除去方法を提供することを目的とする。【0011】【課題を解決するための手段】本発明のエンドトキシンの除去方法は、蛋白質とエンドトキシンとを含む液からエンドトキシンを除去する方法において、前記液のpHが該蛋白質の等電点よりも高く、かつ、イオン強度が0.05〜0.5の条件下で、該液と架橋キトサン粒状物とを接触させることを特徴とする。【0012】即ち、本発明者らは、蛋白質とエンドトキシンとを含む液からエンドトキシンを除去するに当り、中性状態で処理するべく鋭意検討を重ねた結果、被処理液のpHが含有される蛋白質の等電点よりも高いpH条件下では、イオン強度が一定値以上であれば、含有される蛋白質の等電点よりも高いpHで十分に処理可能であることを見出し本発明を完成させた。【0013】以下に、本発明を詳細に説明する。まず、本発明においてエンドトキシン吸着材として用いる架橋キトサン粒状物について説明する。【0014】本発明に係る架橋キトサン粒状物は、通常のキトサン或いは低分子量キトサンを用いて、公知の方法で粒状化したものを架橋処理することにより容易に製造することができる。【0015】ここで、粒状化処理法としては、例えば、キトサンの酸性水溶液を疎水性分散媒中に分散させ、撹拌下に水分を蒸発させ粒状化する方法(特開平1−301701号公報)が挙げられる。また、キトサン酸性溶液に乳化剤を含む疎水性溶剤を加えてエマルジョン化し、次いでアルカリ溶液中で撹拌下粒状物化する方法(特公昭59−30722号公報)が挙げられる。更に、低分子キトサンを粒状化する方法として、低分子量キトサンを酸性溶液に溶解し、次いで塩基性溶液中に落下させて粒状化する方法(特公昭63−54285号公報)も挙げられる。【0016】これらの方法で粒状化されたキトサンは、公知の方法で架橋処理するが、その架橋処理は、キトサン粒状物を必要に応じて適当な溶媒中にて、エピクロルヒドリン、グルタルアルデヒド、有機ジイソシアネート類等の架橋剤を加えて処理することにより行なうことができる。【0017】なお、架橋処理に用いる溶媒としては、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド類やジメチルスルホキシドが使用できる。これらの溶媒は1種のみを使用しても、また、2種以上を混合して使用しても良い。また、有機ジイソシアネート類としては、例えば、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、1,4−フェニレンジイソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、イソフォロンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート等が挙げられる。架橋剤の使用量は特に制限はないが、キトサンのアミノ基1当量に対して0.2〜0.8当量反応する程度とするのが好ましい。また、溶媒を使用する場合、その使用量はキトサン粒状物の体積に対して1〜5倍量とするのが好ましい。【0018】架橋処理条件は用いる架橋剤、溶媒の種類によって異なるが、通常の場合、0〜60℃で0.05〜5時間行なわれる。【0019】このようにして製造された架橋キトサン粒状物は、その使用に際しては、まず、塩基性溶液と接触させることによりアルカリ洗浄し、吸着しているエンドトキシンを失活させて除去する。アルカリ洗浄に用いる塩基性溶液としては、NaOH、KOH、NH3 などの水溶液或いは、これらと有機溶媒との混合液で、濃度0.01〜1Nのものを用いることができる。その後は、エンドトキシンを含まない滅菌水(エンドトキシンフリー水)を用いて水洗し、余剰のアルカリを洗浄除去する。水洗後は、これをそのままエンドトキシン除去に用いることができるが、必要に応じて、酢酸、リン酸、塩酸などの水溶液或いは、これらと有機溶媒との混合液で、濃度0.01〜1Nのものと接触させて、キトサンのアミノ基を解離型として用いることもできる。酸と接触させた場合は、その後更にエンドトキシンを含まない滅菌水で水洗して、余剰の酸を洗浄除去する。【0020】なお、本発明において、エンドトキシン吸着材として用いる架橋キトサン粒状物の粒径は0.01〜3mm程度、イオン交換容量は0.1〜0.4meq/ml程度、比表面積は1〜300m2 /g程度であることが好ましい。【0021】次に、このような架橋キトサン粒状物をエンドトキシン吸着材として用いる本発明のエンドトキシンの除去方法について説明する。【0022】本発明の方法においては、上記架橋キトサン粒状物をカラムに充填し、このカラムに被処理液である蛋白質とエンドトキシンとを含む液を当該蛋白質の等電点よりも高いpHに調整して通液し、カラム出口の液を回収する。このとき、該蛋白質の架橋キトサン粒状物への吸着を防止するために、被処理液のイオン強度を0.05〜0.5、好ましくは0.1〜0.5、特に0.1〜0.5に調整する。【0023】本発明において、pHの調整は蛋白質を溶解する緩衝液の酸と塩基の濃度を変えることにより容易に行なうことができる。【0024】また、イオン強度の調整は、食塩等の塩類の添加や緩衝液の濃度の調整等、公知の方法により行なうことができる。【0025】なお、被処理液のイオン強度が0.05以上であれば、当該液にそのまま本発明の方法を適用できる。被処理液のイオン強度が0.05未満であれば、上記方法によりイオン強度を0.05〜0.5に調整した後、本発明の方法を適用する。【0026】本発明において、通液速度はエンドトキシンの除去効率に大きく影響し、通常の場合、SV0.1〜20BV・hr−1、特に0.5〜10BV・hr−1とするのが好ましい。【0027】本発明の方法においては、上記エンドトキシン除去に使用後の架橋キトサン粒状物は、前述と同様の塩基性溶液でのアルカリ洗浄及び水洗を行なうことにより再生、再使用が可能である。【0028】なお、本発明において、処理対象とされる蛋白質及びエンドトキシン含有液の蛋白質としては、特に制限はないが、好ましくは等電点が7以下のものが良い。【0029】また、被処理液のpHについても、被処理液中に含有される蛋白質の等電点よりも高ければ良く、特に制限はないが、キトサンのアミノ基の解離度を考慮した場合、蛋白質の等電点より高くかつpH8以下が好ましい。【0030】【作用】本発明においては、架橋キトサン粒状物を用いて、蛋白質の等電点よりも高いpH条件下及びイオン強度が0.05〜0.5の条件下で蛋白質含有液と架橋キトサン粒状物を接触させることにより、蛋白質がキトサンに吸着するのを可及的に防止する。従って、蛋白質の沈澱、変性を引き起こすことなく、エンドトキシンのみを選択的かつ効率的に除去することが可能とされる。【0031】しかも、このように蛋白質の等電点よりも高いpHにおいて、高イオン強度にて処理可能なことから、被処理液の予備調整が軽減され、また、多くの場合、処理後の製剤化における中和処理も不要とされる。【0032】【実施例】以下に実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。【0033】なお、以下の実施例及び比較例において、エンドトキシンの定量は生化学工業のトキシカラーシステムを用いて行ない、アルブミンの定量は紫外線(280nm)の吸光度を測定して行なった。【0034】実施例1[架橋キトサン粒状物の製造]固有粘度が20.0(dl/g)、コロイド当量値が4.9(meq/g)、分子量約30万、粒径9メッシュパス〜200メッシュ・オン、平均粒径16〜24メッシュ、脱アセチル化度82mol%であるキトサン20gを2.0重量%のアジピン酸水溶液1リットルに溶解し、2.0重量%のキトサン酸性水溶液を調製した。【0035】上記水溶液100mlを、デカリン800mlにノニポール130(三洋化成工業(株)製)25gを加えた分散媒中に十字形撹拌羽根を用いて1300r.p.m.で撹拌することにより分散させた。【0036】上記の分散状態を維持したまま、分散液を80℃の水浴中で加温することにより、用いたキトサン酸性水溶液中の水を2時間で蒸発除去した。水が除去されると白色の成形体が得られた。これを濾過分離し、アセトンで数回洗浄後、0.11NのNaOH水溶液で数回洗浄した後、水洗し、粒径0.1mmの多孔質粒状体(ゲル)20mlを得た。【0037】上記方法で得られたゲル20mlをDMF/アセトン=2/1(V/V)の溶液40ml中に加え、20℃で撹拌しながら0.20gのヘキサメチレンジイソシアネートを加えた。その後、20℃で90分間撹拌した。その結果、イオン交換容量0.22meq/ml、比表面積10m2 /gの耐酸、耐アルカリ性のキトサンゲルを得た。【0038】[エンドトキシンの除去試験]上記方法により得られたキトサンゲルを、内径8mm、長さ100mmのカラムに充填し、カラム内を0.5M NaOH水溶液で洗浄した後、滅菌水でアルカリを洗浄除去した。更に、0.1M 酢酸水溶液でカラム内を置換した後、滅菌水で余剰の酸を洗浄除去した。その後、試験液と同じ組成の酢酸又はリン酸緩衝液で置換して試験に用いた。【0039】試験は、5mg/mlのウシ血清アルブミン(生化学工業製,等電点4.8,BSA)溶液を表1に示す条件で上記カラムに通液することにより行なった。イオン強度は酢酸緩衝液(表1中のNo.1)、及びリン酸緩衝液(表1中のNo.2)の濃度を調節することにより調整した。【0040】回収液のエンドトキシン濃度を表1に示す。なお、各試験において、アルブミンの回収率はいずれの場合も95%以上であった。【0041】実施例2実施例1と同様の方法で、試験液として5mg/mlのフェツイン(生化学工業製,等電点3.2〜3.8)溶液を表1に示す条件で実施例1と同じように調製したカラムに通液した。イオン強度はリン酸緩衝液の濃度を調節することにより調整した。【0042】回収液のエンドトキシン濃度を表1に示す。なお、フェツインの回収率は87%であった。【0043】比較例1実施例1と同様の方法で、試験液として5mg/mlのウシ血清アルブミン溶液を表1に示す条件(等電点以下のpH)でカラムに流した。イオン強度は酢酸緩衝液の濃度を調節することにより調整した。【0044】回収液のエンドトキシン濃度を表1に示す。なお、アルブミンの回収率は95%以上であった。【0045】比較例2pHを5.2、イオン強度を酢酸緩衝液で0.01に調整した他は実施例1と同様に試験した。この結果、カラム出口液から求めたBSA回収率は0.0%であった。【0046】【表1】【0047】表1より、本発明の方法によれば、蛋白質の等電点よりも高いpHにて、エンドトキシンを選択的かつ効率的に吸着除去できることが明らかである。【0048】なお、各例における試験後、カラム中の架橋キトサン粒状物を0.5M NaOHと一晩接触させて再生し、水洗後、同様の処理を繰り返したところ、いずれも同様の処理結果が得られた。【0049】【発明の効果】以上詳述した通り、本発明のエンドトキシンの除去方法によれば、下記▲1▼〜▲5▼のような効果のもとに、蛋白質及びエンドトキシンを含む液中から、エンドトキシンのみを選択的かつ効率的に、容易に除去することができ、エンドトキシン濃度が著しく低い処理液を得ることができる。【0050】▲1▼ 等電点以下で変性、沈殿するような蛋白質を含む液からも効率良くエンドトキシンを除去することができる。▲2▼ 高塩濃度でのエンドトキシン除去が可能である。このため、被処理液のイオン強度が高い場合には前処理としてのイオン強度の調整を不要とすることができる。▲3▼ エンドトキシンをpg/mlオーダーまで除去することができる。▲4▼ 吸着材として用いる架橋キトサン粒状物は耐アルカリ性に優れることから、アルカリ洗浄により再生再利用が可能であり、極めて経済的である。▲5▼ 処理後の製剤化に当って、中和処理を不要とすることができる。【0051】このような本発明のエンドトキシンの除去方法は、医薬品用蛋白質溶液の精製方法等として、工業的に極めて有用である。 蛋白質とエンドトキシンとを含む液からエンドトキシンを除去する方法において、前記液のpHが該蛋白質の等電点よりも高く、かつ、イオン強度が0.05〜0.5の条件下で、該液と架橋キトサン粒状物とを接触させることを特徴とするエンドトキシンの除去方法。