理化学研究所免疫・アレルギー科学総合研究センターの渡会浩志・上級研究員らは、マウスを使った研究で、ウイルスを撃退する生体物質I型インターフェロンの産生を増強するタンパク質「PDC-TREM」を発見し、その分子メカニズムを明らかにした。新型インフルエンザなどの抗ウイルス薬や自己免疫疾患治療薬の新しいターゲットになると期待される。米国アカデミー紀要のオンライン版に19日掲載された。 新型インフルエンザは、動物、特に鳥類のインフルエンザが人に感染し、人の体内で増えることができるように変化し、人から人へと効率よく感染できるようになったもので、いつ出現するのか誰にも予測することはできない。未知のウイルスであり、ほとんどの人は免疫を持っていないため、容易に人から人へと感染して広がることから、世界的大流行(パンデミック)の発生が懸念されている。 インフルエンザを始めとする種々のウイルスには、大きく分けてDNAウイルスとRNAウイルスがある。ウイルスが生体内に入ると、Toll様受容体(TLR)が、ウイルス由来の核酸(TLR9がDNA、TLR7はRNA)を認識し、I型インターフェロンがウイルスの増殖を抑えるために産生されることが分かっていたが、その具体的なメカニズムは分かっていなかった。 PDC-TREMは、形質細胞様樹状細胞がTLRによって活性化されたときにのみ細胞膜状に発現する分子で、他の免疫担当細胞では発現は見られていない。そこで研究チームは、PDC-TREMに注目し、形質細胞様樹状細胞における機能を解析した。 形質細胞様樹状細胞を培養し、TLR刺激物質のCPG-Aを加えると、PDC-TREMの発現は上昇し、インターフェロン遺伝子が活性化され、大量のI型インターフェロンが放出されることが分かった。逆に、PDC-TREMの特異的モノクローナル抗体を加え、PDC-TREMの機能を抑制すると、インターフェロンの産生は10分の1になった。 次にPDC-TREMが認識する分子を同定し、同じ細胞上にあるプレキシン(PlxnA1)と会合していることを突き止めた。プレキシンに対するリガンドであるセマフォリン(Sema6D)を作用させることで、PDC-TREMを刺激するとI型インターフェロンの産生が増強することができた。 つまり、ウイルスが生体内に侵入すると、TLRが検知し、形質細胞様樹状細胞が防御反応を発動、さらに信号を受けたPDC-TREMによりI型インターフェロンの産生を増強するという2段構えで生体防御反応を担うメカニズムが新たに発見された。実際、生体マウスを使った実験でも、I型インターフェロンの産生が増強された。 渡会研究員は「ヒトの細胞でも、PDC-TREMと同じオムソログ(共通の遺伝子)が見つかっていることから、今後はヒトをターゲットに研究を進めていきたい」としている。 今後、ヒトでの研究が進めば、ウイルスに対する生体防御反応を強化することが可能になり、パンデミックが起こった時に、ワクチンができるまでの急場をしのぐ薬剤の開発につながる。また、インターフェロン産生異常による自己免疫疾患である、膠原病やクローン病などの治療にもつながることが期待される。
科学新聞 2008年02月29日 by 株式会社 科学新聞社